以下は命にかかわるような疾患や症状をあげており、いずれもすぐに病院に来て頂いた方が良いものです。もちろんすべてがこの症状通りとなるわけではありませんので、何かいつもと違うとお感じになった場合は、まずお電話ください。
A. 中年齢以上の大型犬の場合、胃の動きが低下した結果、胃にガスがパンパンに溜まったり、胃がねじれてしまったりする、胃拡張胃捻転の可能性があります。胃がなぜ捻じれるのかについての原因ははっきりしていませんが、1日1回のいわゆるドカ食いや、食後すぐに散歩したりすると起こりやすくなると言われています。また、冬場に多いとの報告もあります。
胃拡張とくに胃捻転を起こすと、拡張した胃によって後大静脈という太い血管が圧迫されるため心臓への血液の戻りが少なくなって循環が悪くなり、ショック状態に陥ります。また、胃への血流が悪くなって胃が壊死を起こしたり、不整脈が出たりするため、治療を実施しても死亡率が15~68%(手術前の状態によりさまざま)と言われている病気で、いかに早く治療を始めるかが予後を左右します。
お腹が急にパンパンに膨れる以外に、吐き気はあるのに吐けない、ヨダレが多いというのも特徴的な症状となります。また、最近は大型犬以外に老齢のミニチュア・ダックスフントにも多く認められます。
治療法はまずは減圧といって、お腹のガスを針で刺して一刻も早く抜いて、パンパンに張った胃の圧力を下げる必要があります。これでとりあえず心臓まで血液が戻り、血圧低下をなるべく少なくすることができ、胃が壊死する可能性も減らせます。しかし、その後に麻酔をかけて胃洗浄か手術をする必要があることもあります。もちろん別の病気の可能性もありますので、まずは一刻も早く診察を受けていただくことをおすすめします。
(SURGEON26 Technical Magazine for Veterinary Surgeons Vol.5 No.2)
尿が膀胱にパンパンに溜まっているのに出ないのか(尿道閉塞)、残尿感で膀胱に尿が溜まっていないのに何回も排尿姿勢を取っているのかによって、緊急性が異なります。尿道閉塞の場合は治療しないと24時間で尿毒症になってその後死亡します。どちらなのかを区別するためには、診察をして触診をし、超音波検査をして見分ける必要がありますので、ご来院をおすすめします。
尿道閉塞が起こる理由としては、ワンちゃんの場合は尿道結石が一番多い理由で、ネコちゃんの場合は結石や血液、炎症産物などによるものが多くなります。特にネコちゃんは普段の排尿の様子が把握できていないことが多く、気が付いたときにはすでに非常に状態が悪くなっていることがあります。トイレではないところで排尿する、おしっこが赤い、おしっこがポタポタとしか出ないなどございましたら、すぐに診察を受けるようにしてください。
ケイレンとは自分の意思とは無関係に勝手に筋肉が強く収縮する状態のことです。ワンちゃん、ネコちゃんの場合は横たわって手足をバタバタさせて泡をふいたり、手足を硬直させてピンと背中を反らせたりというタイプのケイレンが多いのですが、他にも神経症状はさまざまなタイプがあるため、神経症状かはっきりしないという場合には動画を撮っていただくと診断の助けになります。
動物がケイレンを起こすと、驚いてパニックになってしまい大きな声をかけたり抱っこされる方がたくさんいらっしゃいます。しかし、刺激によってケイレンがさらに悪化することがありますので、静かに見守るようにしてください。ケイレンがどれくらいの時間続いてどのような症状があったのかをよく観察して頂くことが診断の助けとなります。
ケイレン中に舌を噛んで出血を起こすこともあるため、それを防止しようとタオルや手を口の中に入れる方もいらっしゃいますが、歯の損傷や老齢動物の場合はアゴの骨の骨折、また窒息を起こす原因となりますので、決してしないようにしてください。
ケイレンが5分以内におさまったら、その後に病院に御連絡いただき診察を受けるようにしてください。坐薬がお手元にあればすぐに使用してください。
もし、激しいケイレンが5分以上続いたり、完全に正常な状態に戻る前にすぐにまたケイレンを起こす、ケイレン自体は1回でおさまったけれども、その後クルクル回ったり、鳴き続けたりという発作の後症状が長く続く場合には、後遺症が残ったり命に係わることもあるため、すぐに病院に来て頂くことをおすすめします。
呼吸が苦しい原因は多岐にわたるため、診断のためには血液検査やレントゲンが必要です。命に係わるため、すぐに診察を受けて頂く必要がありますが、来院時には下記の注意点を守ってください。
抱っこで来院される方がたくさんいらっしゃいますが、抱っこで胸を圧迫することでさらに呼吸状態が悪くなることがありますので、必ずケージに入れて来院してください。
また、動物の自然な姿勢(四つん這いの状態)から仰向けにするなど急に体勢を変えると、呼吸が止まる可能性がありますので、絶対に無理に体勢を変えようとはしないでください。
原因は大きく分けて2つとなります。何らかの原因で血圧が下がってショック状態となっている場合と重度の貧血になっている場合があります。
どこかの痛みが強いことでも舌の色が白くなることもあります。診察をしないと原因や状態は分かりませんが、生命に係わることが多いためご来院をおすすめします。
何を誤食したかで症状や治療は異なります。いつ何をどれくらい食べたのかを確実に把握していただくことが非常に重要となります。市販されているものであれば、正確な商品名やメーカー名まで把握していただけると助かります。
誤食した場合は誤食後2時間以内(チョコレートの場合は6時間以内)であれば、催吐といってお薬を使って吐かせることが一番の治療となります。ただし誤食したものによっては催吐させると危険なものがありますし、すでにケイレンや嗜眠傾向(眠気が出ている状態)に陥っている場合には催吐できません。また、最近はWEB上に自宅での食塩を用いた催吐方法が載っていることがありますが、自宅での催吐は気管への誤飲を起こす危険性があり、また高ナトリウム血症という状態を起こすと命に係わりますので、おすすめしません。
・ 玉ねぎ・にんにく
アリルプロピルジスルフィドによってヘモグロビンが酸化することで赤血球が破壊されて、貧血が起こります。粘膜蒼白や呼吸速迫、衰弱などの症状はすべて貧血による二次的なものですので、食べた直後には何も症状はありません。貧血を起こしているのに気が付かずにいると、命に係わることもありますし、破壊された赤血球の色素によって腎臓に障害が出ることもあります。貧血を起こす摂取量や症状発現の時期は1~4日後とさまざまですので、もし誤食してしまった場合は一刻も早く吐かせることが必要です。
・ チョコレート
テオブロミンという中毒物質によって、心筋と中枢神経系が刺激されます。症状は2~4時間後から現れ始め、頻脈(心拍数が非常に早くなること)や高体温、嘔吐、下痢、興奮状態となります。大量に摂取するとケイレンを起こしたり昏睡状態となって、摂取から18~24時間以内に死亡することもあります。解毒剤はありません。
(Small Animal Toxicology Second Edition)
・ ブドウやレーズン
原因物質やメカニズムはよく分かっていませんが、摂取量によっては急性の腎不全を起こします。接種から数時間以内に嘔吐や下痢、腹痛が認められます。その後、24時間以内に乏尿や無尿状態となり、治療しなければ死亡します。
(Small Animal Toxicology Second Edition)
・ タバコ
ニコチンによる中毒症状で、消化管や皮膚、粘膜から急速に吸収されるため、摂取から1時間以内に嘔吐、興奮が認められます。摂取量が多いとケイレン、除脈(心拍がゆっくりになること)などが起こり、死に至ることもあります。タバコ1本で致死量に達することも多いため、すぐに診察を受ける必要があります。
(Small Animal Toxicology Second Edition)
・ 薬・サプリメント
お薬の種類や量によって、危険性が大きく異なります。
風邪薬や鎮痛剤は人間にとって安全でも、動物では腎不全を起こすことがあります。また、猫ちゃんではα-リポ酸というサプリメントで肝障害を起こし死亡します。
必ず薬の名前や用量(○mg)を把握するようにしてください。薬の誤食は成分が吸収されるのが非常に早く、特に空腹時には吸収されやすくなります。薬の種類によっては解毒剤がありますが、いかに早く治療を始めるかが重要となります。
・ ユリ
原因物質ははっきりしていませんが、ネコちゃんがユリを誤食すると急性の腎不全になることが分かっています。ネコちゃんは非常にユリの中毒に対して感受性が高く、ユリ科の小さな花びら2~3枚の誤食でも症状が出ると言われています。症状発現は非常に早く、摂取から1~3時間で嘔吐したり、ヨダレが多くなったりします。その後一度回復したように見えますが、治療をしないと腎臓への影響が現れ始め12~30時間後に元気がなくなり、尿の作られる量が減少し、摂取から3~7日後には亡くなります。腎臓への影響が現れ始める前にいかに早く治療をスタートするかで予後が大きく変わります。
(Small Animal Toxicology Second Edition)
・ キシリトール中毒
犬ではキシリトールを摂取することで、30~60分で低血糖を起こし、ときには肝障害を起こすこともあります。低血糖は非常に危険で、意識の低下やケイレン、昏睡などを起こします。中毒量は個体差がありますが、空腹時にはより少量の摂取でも症状が激しくでますので、食べた量にかかわらず、すぐに診察を受けるようにしてください。
(Small Animal Toxicology Second Edition)
・ エチレングリコール中毒
犬に比べて猫は非常に感受性が高く、犬の1/4量でも症状が激しく発現します。エチレングリコールを摂取すると、30分から12時間で嘔吐したり、ふらふらしたり、ケイレンを起こしたりします。12~24時間後に呼吸困難に陥り、犬で36~72時間後に、猫では12~24時間後に腎不全を起こします。
車の不凍液に入っていることで有名ですが、他にもさまざまなものに含まれています。冷凍庫に入れても硬くならないアイスノンは現在では高吸水性ポリマーが使われるようになっていますが、2009年以前の製品に関してはエチレングリコールが使用されているものもありますので、まずは成分を確認することが重要です。
エチレングリコールは他には氷結防止剤、ブレーキオイル、水性インク、墨汁にさまざまな量で含まれており、カークリーナー、ウィンドウウォッシャー液、住宅用洗剤(ガラス用、バス用)に含まれている場合もあります。
誤食した際には、必ず商品の成分を確認してください。
(公益財団法人 日本中毒情報センター)
(Small Animal Toxicology Second Edition)
・ 植物のタネ
桃や梅干しなどの植物のタネは小さければ便と一緒に排泄されますが、大きさによっては小腸で閉塞することがあります。なかには誤食したことに気が付かず、ずっと胃の中で何か月もコロコロと転がっていて、ある日突然に胃の幽門部(胃から十二指腸につながる出口)にはまり込んで、頻回に嘔吐しだすこともあります。小腸で閉塞を起こしたまま、時間が経つと腸管が壊死してしまうので早く診断・治療することが必要です。誤食したことに気が付いたら、タネは決して消化されませんので来院していただき催吐させることをおすすめします。
・ ひも状異物
犬や猫が遊んでいるうちに、毛糸や縫い糸などのひも状異物を食べてしまうという事故がときどき起こります。誤食後すぐに病院で異物が除去できた場合には問題がありません。しかし、誤食に気が付かず、突然の嘔吐や食欲不振で来院されるケースの方がよく認められます。
ひも状異物の場合、長さが長ければ長いほど腸がアコーディオンのように手繰り寄せられてしまい、細くて丈夫な紐では腸が裂けてしまうこともあります。経過が長くなればなるほど命に係わるため、嘔吐した場合はなるべく早く診察に来て頂くことをおすすめします。